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市民による市民のための音楽活動支援団体「NPO法人ARCSHIP」

「人」と「街」と「音楽」がもっとつながるための活動紹介をはじめ、神奈川県内の音楽・アートイベント情報をナビゲートします。

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【私的音楽評】No.59 ニシセレクト18 担当ニシトオル

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(たった)ひとりの女を幸せにする歌
I LOVE YOU.OK/矢沢栄吉
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俺の19才の夏は暗黒だった。
大学受験二浪中。自分への苛立ちと焦り、なのに何もせずに毎日が過ぎていた。

「おお!さすが自宅浪人、家におったか。コーヒーおごったろ」
高校時代の親友“谷ヤン”は名古屋の魚卸の会社に勤めていた。盆休みで実家に帰っているという。電話の声は大人びていた。

高校時代から通う喫茶店で友人のうわさ話をした後、彼が言った。
「勉強しとるか、ちゃんと」
「うーん」
「なんやその返事」
「大学行くの、辞めようかと」
「なんやと?ずいぶんヘタレになったのう」
谷ヤンは身長190センチ近い巨漢、声にも凄みがある。
「大学に行く意味が分からなくなってきたんや」
「なんやそれ?ワシは魚を売る。タケシは運動具を売る。キヨシは家を継いで米を作る。お前は勉強して大学に行く。卒業式の日に言ったやろ。勉強せーよ、どあほ」

黙っているしかなかった。ぬるくなったアイスコーヒーがやたらと苦く感じた。

「マスター、エーちゃん聴きたい」
谷ヤンのリクエストでレコードがターンテーブルに載せられた。
「なあ、お前の夢はなんや?」
答えに詰まった。俺の夢?なんだろうか。
「ワシの夢は惚れた女と結婚することや。相手の両親から交際を反対されとる。でも諦めん」

♪アイ・ラブ・ユー・OK この世界に
♪たったひとりのおまえに
♪俺の愛のすべてをささげる

「この歌ワシのテーマソングや。ひとりの女を幸せにする歌やで。ワシも同じや、だから金を稼ぐ、意味を考えるヒマもない」
「そやけど…俺の場合…」
「カッコつけるな、やることをやれ!止まっても何も変わらんぞ」
谷ヤンにいつものニカニカ笑いはなかった。真剣な表情に圧倒された。
「女の父親に言われたんや、三年で1,000万円貯めてみろと」
俺にとってその額は天文学的な数字だった。それを元同級生の19才が目標にしていた。

家に帰り、別れ際の谷ヤンの言葉を思い出していた。
「なあ、ちゃんと勉強してワシらには出来んことをやってくれ。ワシは1,000万円貯める。競争やで!」
勉強机にマジックで大きく書いた
“谷ヤン1,000万円。俺勉強”

翌年4月、俺は大学に入学した。
そして“あの日”から3年経った夏、結婚披露宴の招待状がアパートに届いた。片隅には添え書きがあった。
「1,000万円の貯金通帳を相手の父親に叩きつけたで!」
(谷ヤンほんまにやりおった)

披露宴は盛大だった。
美しい新婦を伴って谷ヤンがビールを注いでくれた。
「貧乏学生、勉強しとるか?」
「あったりまえや、そのための大学じゃ!」
巨漢がニカニカ笑い、俺の肩をバシバシ叩いた。

♪抱きしめれば せつなくなる
♪俺のこの腕で いつも幸せにしたい

二人の後ろ姿を見て、頭の中で谷ヤンのテーマソングが流れた。
ひとりの女を幸せにする歌。

それから3年後、俺は友人4人と会社を立ち上げた。俺にしか出来ないことをするために。

■ I LOVE YOU.OK/矢沢永吉(1975年)
谷ヤンにとって1,000万円の“パワーソング”。演歌ロックとか言われるけれど、これほど真摯に愛する女に誓う歌があるだろうか。
http://www.youtube.com/watch?v=05leXwt3B4Y&feature


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| 週刊木曜日私的音楽評 | 10:00 | comments:1 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

動き出すにはパワーがいる。
立ち止まるにもパワーがいる。

どう充電するかが、悩みどころだ。

| aym | 2010/08/05 12:57 | URL |















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