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市民による市民のための音楽活動支援団体「NPO法人ARCSHIP」

「人」と「街」と「音楽」がもっとつながるための活動紹介をはじめ、神奈川県内の音楽・アートイベント情報をナビゲートします。

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【私的音楽評】NO.44 ニシセレクト15 担当ニシトオル

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坊主よ、カーネーションの花を知っているか?
横浜駅



「言ってた靴と同じでしょ?どこがちがうのよ!」

「・・・ねえ、家に帰ったらゲームする時間、ある?」

「だから、その前に靴を買うんでしょ!」

「ゲームする時間、ある?」

「ママは靴の話しをしてるの!」


ボックス席の向いの母子の会話は、ずっとこの繰り返しだ。

どんよりとした曇り空の午後、湘南新宿ライン下り線。二人は渋谷から乗ってきた。
座った時からお母さんは眉間にシワ。小さな男の子はお母さんのコートの裾を握って、彼なりに険悪なムードを感じているようだった。

俺は仕事の資料を読むのをやめた。となりの婆さんも単行本を閉じていた。
迷惑ですとも言えない。少し損をした気分だった。
(こらっ坊主、質問に答える努力をせんかい、努力を)


「ママは忙しいの。今日はお仕事休んだのよ」

出た、大人の都合。
これは言ってはいけない。でも仕方がないのかな。母の苦悩。

「どれもこれもダメって、何で?新しい靴、ほしいんでしょ!」
「うん・・・・でも・・、家に帰ったらゲームする時間、ある?」
「もう、知らない!」

お母さんの中で何かが切れて、袖から手を払った。

「もう帰る。横浜では降りないからね。靴は買わない」

ついに最後通告。
ギュッと握った小さな手。見上げる小さな瞳。
お母さんだって目を閉じて辛そうだ。ああ事態は最悪。


電車が鶴見川を渡った時だった。
「ごめんなさい、でしょ?」ふいに隣の婆さんが言った。

予想外の展開に3つの顔が婆さんを向いた。

「あっ、お騒がせして、すみません」
お母さんは我に返りあわてた。

「いいんですよ。さあ、ごめんなさい、しようね」
細い指がトントンと小さな膝小僧にやさしく触れた。

お母さんは深呼吸しているようだった。
ちゃんと男の子の顔を見ている。もう眉間のシワはない。
半ベソかいた顔の突き出たくちびるが動いた。

「・・・ごめん・な・さ・・・」
声に出すと涙が出ちゃうんだね。ふんばれ!坊主。

そして二人は横浜駅で降りた。
お母さんはしっかりと男の子の手を握っていた。



なあ坊主。
新学期、新しい靴の調子はどうだ?
その靴にはおまえの名前が書いてあるだろ?それはお母さんが書いたんだ。ママの字だ。

なあ坊主。
男は泣いても、女を泣かせちゃイカンのだ。

なあ坊主。
カーネーションの花を知っているか?来月は母の日だぜ。



かりゆし58/アンマー(2006)
http://www.youtube.com/watch?v=xG9cZ4saLkI&feature


かりゆし58
元不良が母(アンマー)への感謝を愚直に綴った唄。エンディングの歌詞がグッとくる名曲だ。

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