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市民による市民のための音楽活動支援団体「NPO法人ARCSHIP」

「人」と「街」と「音楽」がもっとつながるための活動紹介をはじめ、神奈川県内の音楽・アートイベント情報をナビゲートします。

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【私的音楽評】NO.37 ニシセレクト12 担当ニシトオル

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イカリングと小田和正のお話
イカリング

大学生の頃、印刷工場でバイトをしていた。
アラマキさんはその工場のベテラン印刷工で、パンチパーマに口ひげ、いつもサングラスをしていた。
一見その筋の人にも見えるけど、工場の野球チーム監督をしていたり街の御神輿を担いだりと、親分肌のオジサンで、貧乏学生だった俺をよく飲みに連れていってくれた。

当時アラマキさんは50才過ぎだったと思う。
歳の差が30もあったが、いつも賑やかなアラマキさんとの酒は旨かった。
時より2年前にガンで亡くなったという奥さんの話しもしていた。
煮物と豚汁が絶品で、肌がキレイで、早とちりの名人で笑い上戸。おもしろおかしく話してくれた。

ある日、いつもの「くろかね食堂」でフライ盛り合わせでビールを飲みながらプロ野球を見ていた。
ふとアラマキさんが向こう側のテーブルにいる若い男女をあごで指して
「あの二人、ありゃいい夫婦だよきっと」と言った。
「なんで分かるんですか?」
「だってよ、肩寄せちゃって熱燗飲んで、いいなぁチキショウ」
どうしたことかアラマキさんは箸でイカリングをつまみ上げると、その輪から二人を見て小さく笑った。
「おまえも見てみな、イカリングで」
俺も輪の中から見てみた。
風景から丸く切り取られた二人は、店の喧噪とは別の世界にいるようだった。
「幸せそうだろ?」
「そうですね」
「幸せって、こういうことよ」
イカリングをビールで流し込んで、アラマキさんはテレビに目を移した。
「昔よぉ、この店でカアチャンがイカリングで俺の顔を見てケタケタ笑った事があってよ。楽しい女だった。うちのカアチャンは幸せだったのかなぁ」
「アラマキさんといつも一緒だったんでしょ?」
そう答えると、サングラスのニカニカ笑いがうなずいた。


小田和正さんの『たしかなこと』を初めて聴いたのは、妻に連れて行かれた横浜アリーナでだ。

♪いちばん大切なことは 特別なことではなく♪
♪ありふれた日々の中で 君を♪
♪今の気持ちのままで 見つめていること♪

小田さんはズルイ。人のハートの柔らかい所を突いてくる。
目に涙がたまっていく歌だった。そしてイカリングの輪の中を思い出した。

♪忘れないで どんな時も きっとそばにいるから♪
♪そのために僕らは この場所で♪
♪同じ風に吹かれて 同じ時を生きてるんだ♪

いまアラマキさんと会えたなら、妻と熱燗を飲みながら言うだろう。
「アラマキさん、イカリングで僕ら二人を見て下さい」と。

小田和正たしかなこと

小田和正/たしかなこと
http://www.youtube.com/watch?v=I-yHDph56Rk&feature=player_embedded
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